エアシリンダの構造解説:初心者から専門家まで理解できる完全ガイド
エアシリンダは、産業用ロボットや自動化機械など、様々な装置で使われる重要な機器です。本記事では、エアシリンダの構造を詳しく解説し、その基本動作や重要な部品について紹介します。
構造を知ることで偏りのない知識が得られ、様々な場面で応用が効くようになります。空気圧機器の初心者の方や保全業務でメンテナンスされる方などは是非本記事で得られる知識をお役立てください。
ここでは最もオーソドックスなロッドタイプのエアシリンダについての説明します。ロッドレスシリンダ、ロータリーアクチュエータ、エアチャックなどは対象外ですのでご承知おきください。
エアシリンダの基本動作おさらい
まずはエアシリンダの基本動作のおさらいです。エアシリンダは空気圧の力により動作し、推力を発生させる機器です。圧縮空気を供給することによりピストンに圧力がかかりピストンロッドが動作します。
ロッド側の圧縮空気を排気し、反ロッド側に圧縮空気を供給するとロッドが前進します。
逆に反ロッド側の圧縮空気を排気し、ロッド側に圧縮空気を供給するとロッドが後退します。
これが複動式のエアシリンダの基本動作です。戻り動作にバネを利用した構造の単動式のエアシリンダというのも存在します。
動作に必要な基本部品
エアシリンダが動作するのに最低限必要な部品を紹介します。
シリンダチューブ
シリンダの本体、ボディとも言われる部分です。基本的なタイプは筒状をしており、筒の両端にはカバーが組み付けられます。材質にはアルミやステンレスが使用されます。
角型の形状もありますが、内面は同じように筒形になっています。内面はピストン部分と摺動するため、精密な研磨加工(ホーニング)や表面処理が施されています。
ピストン
圧縮空気の圧を受けて動作するための部品です。
ピストンの受圧面積に比例して推力が可変します。そのため、推力を強くしたい場合はピストン径が大きいサイズを選定する必要があります。
ロッド
対象物(ワーク)に推力を伝えたり、アタッチメントと連結させるための部品です。実際に外部から動作が確認できる部分であり、ピストンに組みついていることで動作します。
先端はアタッチメントが組み付けられるように主にネジ加工がされています。また、ロッド周面はロッド側カバーと摺動するため、高精度の加工とメッキ処理がされています。
ポート
カバー部もしくはシリンダチューブ本体には圧縮空気を給排気するためのポートが設けられています。
ロッド側と反ロッド側に計2つが設けられます(単動式の場合は1つ)。ポートには継ぎ手やスピコンを組み付けるためにメネジが切られています。
エア漏れ防止に必要な部品
エアシリンダには圧縮空気を供給するため、隙間があると圧縮空気が漏れ出てしまいます。エア漏れするとエアシリンダ内の圧力が下がり必要な能力が出せなくなるため、対策部品が必要になります。
ピストンパッキン
ピストンに組み込まれるゴム材です。ピストンとシリンダチューブ間の隙間からの漏れを防ぐために必要です。
エアシリンダ内のロッド側の部屋と反ロッド側の部屋をピストンパッキンで分け、両部屋の圧力差が推力に大きく関わります。そのため、ピストンパッキンが摩耗してエアが漏れると必要な推力が出せなくなったり、ひどいとエアシリンダが動かなくなってしまいます。
基本材質はニトリルゴムが使用され、環境温度が高い場合はフッ素ゴムが使用されます。また、摺動抵抗を低減させたい場合(低摩擦仕様、低速仕様)は摺動を良くするための表面処理が施されます。
ロッドパッキン
ロッド側カバー部に組み付けられるゴム材です。ロッド側カバー内周面とロッド外周面の隙間からのエア漏れを防ぐために設置されます。
ロッドパッキンが摩耗してエア漏れが起きると、エアシリンダ内のロッド側の部屋の圧力が下がってしまいます。すると後退動作をする時の推力が落ちてしまい、ひどいと後退動作ができなくなってしまいます。
材質はピストンパッキンと同様、基本はニトリルゴム、高温時はフッ素ゴムが使用され、摺動抵抗を低減させたい場合は表面処理が施されます。
ガスケット
エアシリンダ内の圧縮空気が外部に漏れ出ないために必要なゴム材です。シリンダチューブと両端のカバー間の隙間からのエア漏れを防ぐために設置されます。
摺動はしないため、滅多に摩耗することはありませんが、メンテナンスで分解後の組み立て時にはみ出てしまったり、組み付けし忘れるとエア漏れの原因になります。エア漏れすると推力低下や動作不良につながってしまいます。
材質は基本ニトリルゴム、高温時はフッ素ゴムが使用されます。
横荷重耐性向上に必要な部品
エアシリンダはロッドに横荷重がかかるケースが少なからずあります。横荷重対策がされていないと、軽微な荷重でもロッドパッキンが早期に摩耗するなど耐久性に大きく関わる他、ロッドの直進性も悪くなります。
ウェアリング
ピストンに組み付けられる、耐横荷重向上や直進性向上につながる部品です。シリンダチューブ内面に接し、ガイドの役割を持っています。
材質は主に摩擦抵抗の低い樹脂材が使用されます。
ブッシュ
ロッド側カバーに設置される部品で、ロッドのガイドの役割を持ち耐横荷重向上や直進性向上につながります。軸受(じくうけ)とも呼ばれます。
ブッシュがストローク方向に長くなるほど効果は向上します。材質は油分を含んだ(摺動性向上のため)鉄などの金属や樹脂材が使用されます。
ガイド機構
大きな横荷重がかかる場合は別途ガイド機構を設ける必要がありますが、エアシリンダにあらかじめガイドが組み込ませたガイド付きシリンダというタイプが存在します。
リニアガイドが設けられたタイプやシャフトガイドが設けられたタイプなどがあります。コンパクトにガイド性能を持たせることができるメリットがあります。
衝撃緩和に必要な部品
エアシリンダはストロークの終端でぶつかるまで減速せずに動作します。そのため負荷重量が重い場合や動作速度が速い場合は、衝撃が強くエアシリンダ自体や機構を破損させてしまう可能性があります。衝撃を緩和させたい時はオプションで追加部品が必要になります。
ラバークッション
動作終端でラバークッション(ゴム材)を接触させることで衝撃を緩和させます。
緩和効果はほどほどですが、安価に衝撃対策をすることができます。
クッションニードル・クッションパッキン
エアクッション仕様で使われる部品です。動作終端での排気流量をクッションニードルで絞ることで終端の動作速度が減速し衝撃を緩和できます。
ピストンの突起部がクッションパッキンに覆われるタイミングで排気流量が絞られて減速する構造です。
ラバークッションより価格は高くなりますが、衝突時に減速することで高い衝撃緩和効果が期待できます。クッションパッキンが摩耗してエア漏れすると減速できなくなるため、その場合はパッキンを交換するようにしましょう。
ショックアブソーバー
エアシリンダの外部に設置する衝撃の緩和機構です。基本的には装置に別置きで設置する必要がありますが、ガイド付きエアシリンダなどには組み込まれる場合があります。
エアクッションよりも大きな衝撃を緩和させることができます。比較的故障頻度が多いのと、設置スペースの確保が必要になることはデメリットとして認識しておきましょう。
動作の潤滑保持に必要な部品
エアシリンダが動作する際は摺動面に抵抗が生じます。摺動抵抗が大きいと、推力低下や最低動作圧力の上昇、パッキン類の早期摩耗など不具合が生じます。摺動面の潤滑を保持することがエアシリンダの寿命向上のポイントになります。
グリース
油より粘度が高く、流動性の低い潤滑剤です。流動性が低いためその場にとどまる性質があり、長期に潤滑性を保持することができます。パッキン類やロッド周面などの摺動部にグリースは使用されます。
以前は油を常時供給して潤滑性を保持していましたが、近年ではほとんどのケースでグリースが使用されています。
エアシリンダに使用されるグリースは、主にリチウム石鹸基グリース、高温時などはフッ素系のグリースが使用されることが多いです。
スクレーパー
スクレーパーはエアシリンダ内に外部から粉塵や水分がロッド部から侵入しないように防御するための部品です。ロッド側カバーに組み付けられる部品で、標準で組み付いている場合もありますが、主にはオプションで付加できる部品です。
エアシリンダ内に外部から粉塵が侵入すると内部のグリースの油分が吸い取られ、水分が枯渇するとグリースが流されて潤滑性を失います。粉塵や水分がエアシリンダにかかる環境ではスクレーパーを設置することで潤滑性を保つことができ、エアシリンダの寿命を伸ばすことができます。
ルブキーパー
ロッド側カバーに組み付けられる繊維状の部品です。潤滑剤が含浸されており、ロッド周面の潤滑を長期に保つことができます。
粉塵が舞う環境において、スクレーパーだけでは効果が十分でない場合に設置されるケースが多く、エアシリンダの長寿命化に大きく貢献できるオプション仕様品です。スクレーパーとロッドパッキンの間に設置されることが多いです。
位置検出に必要な部品
エアシリンダが前進したか、後退したかを装置側(PLC)が判別するために必要な部品を紹介します。
シリンダセンサ
エアシリンダに設置できるセンサーで、磁気に反応すると出力信号を出すことができます。
有接点・無接点や、2線式・3線式など複数のタイプが存在します。装置に求められる仕様に合わせて選択が必要です。前進時と後退時のどちらも出力を確認したい場合は、シリンダセンサは2つ必要になります。
マグネット
シリンダセンサは磁気に反応するため使用するためには、ピストンにマグネットが設置されている必要があります。
シリンダセンサはピストンに組み付けられたマグネットが近づくと反応します。マグネットがないエアシリンダにシリンダセンサを設置しても意味がありませんので注意してください。
まとめ
本記事では、基本動作の原理から重要な各部品の役割、さらには特別な機能を果たすオプション部品に至るまで、エアシリンダの構造に関する包括的な解説を行いました。
これにより、初心者から専門家までがエアシリンダの基本的な知識を深め、その運用やメンテナンスにおいて役立つ情報を得ることができます。
エアシリンダの構造を理解することは、それを用いる装置の性能を最大限に引き出し、長期にわたって安定した運用を実現するための第一歩です。本記事を、そうした目的に向けた実践的な知識の獲得にぜひお役立てください。