電磁弁とは何か?全体像が正しく分かる徹底解説ガイド
電磁弁とは電磁石の力を利用して弁を開閉させたり流体の流路を切り替えたりする機器のことです。ソレノイドバルブとも呼ばれます。
しかし電磁弁は非常に多くの種類があり、その役割も多岐にわたるため、仕様打ち合わせ等で一言で「電磁弁」と表現してしまうと、
と用途が伝わらなかったり、もしくは別の用途の電磁弁と勘違いされてしまうこともあります。ミスなく意思疎通を図るためには電磁弁の種類や用途を明確にしておく必要があり、ある程度の知識を持っておかなければなりません。
本記事では、電磁弁の構造や駆動方式などの種類や各々の用途について理解を深めていけるように説明していきます。また、電磁弁のようで電磁弁とは呼ばないものもあり、それとの区分けも分かるようにしていきます。
電磁弁の基本的な動作原理
電磁弁とは電磁石により生じる磁力を利用して動作(開閉や流路の切替)する弁のことです。その中にも様々な構造種類が存在しますが、この項では電磁石の力で動作する基本的な原理について簡単に説明します。
まず電磁石を構成するには固定鉄心、可動鉄心、コイルが必要です。
図のようにコイルの中に可動鉄心を入れ、コイルに電気を流すと可動鉄心に磁力が発生します。するとこの磁力により可動鉄心が固定鉄心に引き寄せられます。
このように電気を流すことで磁力を発生させる構造体を電磁石と呼びます。
この電磁石に弁体とバネを追加することで電磁弁が完成します。通常時はバネの力により弁を閉め、コイルに電気を流すことで弁体と一体化させた可動鉄心が固定鉄心に引き寄せられて弁が開きます。
電気を止めると磁力がなくなりバネの力で弁は閉状態に戻ります。
様々な弁の構造種類
電磁弁の動作原理は前項の通りですが、その中でも弁の構造には様々な種類があります。その代表的なタイプを紹介します。
ポペットタイプ
弁座を弁体でフタをして流体を止めたり、弁体を開けて流体を流したりする方式です。
多ポートには向いていないため、2ポートか3ポートの電磁弁に主に採用されます。密封性が高く大きな流量を流せる特徴があり、用途も空気でも水でも薬液でも幅広く対応できる汎用的な形状です。
スプールタイプ
主にシリンダ駆動用の電磁弁に採用される方式です。スプールは筒形をしており、各部屋を分ける仕切りが設けられています。
スプールをスライドさせることにより仕切りの位置も変わり、流体の流れ方向を切り替えることができます。
シール面が摺動を繰り返す構造のため、エア漏れは他の方式に比べ多くなります。しかし多ポートの流路切替をできる上、小型で大きな流量を流せる特徴があることからシリンダ駆動やエアブロー工程で重宝されます。
スプールタイプの電磁弁については以下の記事で詳しく説明していますのでご確認ください。
(ボールバルブ)
電磁弁ではないですが、他のバルブの構造として補足で紹介します。手動バルブや電動バルブでよく使われるのがボールバルブです。ボール部に流路が設けられており、回転させることで流体を流したり止めたり流路を変えたりすることができます。
しかし、ボールバルブの作動に電磁石が選ばれることはほとんどなく、主に手動式、エア作動式、電動(モーター)式が採用されます。
この電動式のバルブを電磁弁と言ってしまう方がいますが、電磁石を利用したものではなくモーター作動であるため電磁弁ではありません。電動式のボールバルブはモーターバルブ、電動弁などと呼ばれます。
駆動方式の種類
直動式
弁の開閉動作を電磁石の力で直接行うのが直動式です。ポペットタイプの電磁弁に多い駆動方式です。(スプールタイプの電磁弁にもあることはあります。)
電磁石による力が直接弁に働くため、応答性が高く、流体の差圧がなくても動作できる特徴があります。しかし、必要な流量や圧力が大きくなるほど弁の動作により大きな力が必要になるため、電磁弁サイズが大きくなってしまうデメリットがあります。
パイロット式
弁の開閉動作を電磁石の動きだけでなく流体の力も利用して行うのがパイロット式です。ポペットタイプ、スプールタイプのどちらにも使われる駆動方式です。電磁石で駆動する弁で少量の流体を制御し、その流体でメインの弁の開閉動作を行います。
電磁石の力は小さくても良いため、電磁弁の小型化、高圧、大流量化、低消費電力化と様々なメリットがあります。しかし、メインの弁開閉は流体の力で行うため、IN側とOUT側の圧力差が一定以上ないと動作しない、流体の流れ方向が制限されることが多い、などのデメリットがあります。
パイロットキック式
基本はパイロット式と同様に流体の力で開閉しますが、IN側とOUT側の圧力がなくても開閉動作が可能です。高圧、大流量の流体が流せ、差圧がなくても動作できるという直動式とパイロット式をいいとこ取りをしたタイプです。
しかし流体圧力が微圧の場合はシール性能が不安定になり、内部漏れが発生する可能性があるので注意しましょう。
(エアオペレイト式)
圧縮エアの力により弁の開閉をする方式です。直接電気を使うものではないので電磁弁ではありませんが、間違えて電磁弁と言ってしまう方もいるので注意しましょう。エアオペバルブ、エア弁などと呼ばれるのが一般的です。
電磁弁に比べて弁を開閉させる力が強くなるため、大流量、高圧の流体を制御するのに向いています。また、電気を使わないため防爆環境でも使用できるのも特徴です。その代わりエア源がない時使用できません。
ポートの数
2ポート
IN、OUTの二つのポートで構成される電磁弁。流体を流すか止めるのみの制御ができます。非通電時に弁が閉じ、通電すると弁が開くタイプをノーマルクローズ(NC)、非通電時に弁が開いており通電すると弁が閉じるタイプをノーマルオープン(NO)と呼びます。
3ポート
P、A、Rの三つ、もしくはNC、NO、COMの三つのポートで構成される電磁弁。
PARの3ポート弁は給気と排気の切替を行うためのバルブで、単動のエアシリンダや単動のエアオペレイトバルブの駆動用に使用されます。
NC、NO、COMは2分岐された流路の切替用に使用されます。様々な流体で使用されます。
4・5ポート
P、A、B、R1、R2の五つのポートで構成される電磁弁。複動のエアシリンダや複動のエアオペレイトバルブなどに使用されます。4ポートはR1とR2(排気ポート)が共通となっているタイプで用途は4ポートも5ポートも同じです。
使用流体
電磁弁で制御できる流体は圧縮空気に限りません。様々な流体で使用できますが、それぞれの流体に適した形に材質等を変えて使用されます。
※本項ではシールという言葉が出てきますが、これはパッキンなど流体の漏れを防ぐための部品のことです。
圧縮空気
材質を腐食させる心配がなく、ボディ材質は黄銅、樹脂など、シール材質はニトリルゴムなどオーソドックスなもので問題ありません。クリーン度を気にするような環境ではボディはステンレス、高温環境やオゾンが発生するような地域ではシールはフッ素ゴムにするなど特殊な事情があった際は注意するようにしてください。
水
圧縮空気と同様にボディは黄銅、シールはニトリルゴムでも使用できます。錆の心配がある場合はボディをステンレス、温水になる場合はシールをEPDMに変えるなど環境に応じて材質を変えるようにしましょう。
油
ボディ材質は黄銅やステンレス、シール材質はニトリルゴムやフッ素ゴムで使用できます。しかし油は粘性がある場合が多いので、どの程度の粘性に電磁弁が対応しているのかを確認するようにしましょう。また、油の種類によってはゴム材が膨潤してしまうこともあるので念のため使用する油との相性もご確認ください。
蒸気
蒸気は100度を大きく超える高温になる場合もあるため、それに耐えうる材質を使用する必要があります。シール材はフッ素ゴムかそれでも不足する場合はPTFEという樹脂系のシールの電磁弁を使用しましょう。また、コイルも許容最高温度の高いものである必要があるので注意してください。
真空エア
真空と言えど流すのは空気なので圧縮空気用で使えるかと言えばそうではありません。空気を引く方向に流れるため、パイロット式の電磁弁は使えません(外部パイロット仕様は使えます)。直動式でもシール構造が真空に適したものでないと漏れ不具合が発生するため、必ず真空用を使用しましょう。また、高真空の領域で使用する場合は漏れや材質にもシビアな電磁弁を使用する必要があるので注意してください。
薬液、薬ガス
薬液、薬ガスと言っても多くの種類があるため、ひとくくりにはできません。様々な種類それぞれに材質との相性があり、相性が悪ければ材質が腐食して早期に故障してしまいます。金属系ならステンレスの中でも高耐食のもの、樹脂ならPTFE、PVC、PEEK、PVDFなど、ゴム材もフッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、パーフロロエラストマーなどから相性の良いものを調べて選びましょう。
まとめ
本記事を通して、電磁弁の中にも非常に多くの種類があることが分かったかと思います。注意しないとお互いの認識違いにより、打ち合わせがスムーズに進まなかったり仕様を間違えて進んでしまったりする可能性があります。
打ち合わせの場で電磁弁が出た時は、「シリンダ駆動用の5ポート弁」「水用のパイロットキック式の2ポート弁」など具体的な用途を含めて伝えるようにしましょう。